110121
静かな時の流れの中で

耳を澄ませば、誰にも聞こえない声が聞こえる。
目を凝らせば、誰の目にも見えないものが見えてくる。
雑踏に紛れていても、雑音にさらされていても
幻惑されそうな原色が折り重なっていても
私は聴いているし、凝視している。
あれはそう、ずっと以前から聞き慣れた
荒野を導く羊飼いの声であり、
物言わぬまま屠(ほふ)られていく羊たちの幻影。

自身と訣別し、また自分と再会する。
自分の醜悪さを忌み嫌いはするが
やがてあるがままの自分を受け容れる。
人は知らない。
自分以上に自分を知る者の存在を。
人は知らない。
人間の感情が、眼からほとばしり出ることを。
私は知らない、何も知らない。
でも、自分が無知な存在であることを
確かに知っている。

時が静かに流れていることを
確かに感じている。